『荒野のホームズ』

スティーヴ・ホッケンスミス/日暮雅通訳/ハヤカワ・ミステリ

 19世紀末、実際にイギリスでホームズ物が書かれていたころのアメリカ西部。

 オールド・レッドこと兄のグスタフ・アムリングマイヤーと、ビッグ・レッドこと弟のオットー・アムリングマイヤーという赤毛の兄弟は、カウボーイだ。洪水と病気で両親とほかの兄弟たちが亡くなってしまい、今では身内は二人だけとなってしまった。家が貧しかったため、ビッグ・レッド以外は学校に通うことができなかったので、字の読めないオールド・レッドは雑誌の記事などをビッグ・レッドに読み聞かせてもらっていたが、そうして読んでもらった中のホームズ物が大のお気に入りとなり、何度も何度も読んでもらっているうちに、その内容も、ホームズの謎の解き方もすっかり覚えこんでしまっていた。

 二人は同じ牧場にカウボーイとして雇われることになったのだが、そこで、支配人が亡くなり、その後、カウボーイの一人も亡くなってしまう。その謎を、オールド・レッドがホームズ張りの推理力で解いていく。そして、その話を書き記していくワトスン役は、とうぜんながら弟のビッグ・レッドだ。

 著者も、もちろん、ホームズの大ファンなのだろう。イギリスからやってきた牧場のオーナーたちの会話の中で、ホームズが実際にイギリスで解決した事件のことなどがさりげなく書かれている。西部のカウボーイとホームズというおもしろい取り合わせが、違和感なく書かれている。

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『女には向かない職業』

P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫

 探偵事務所の所長が自殺をし、パートナーとなっていたコーデリアは一人残された。そこに持ち込まれた依頼。大学生の息子が自殺をしたのだが、原因を調べて欲しい、というものだった。周囲の「女には向かない職業」ということばには耳を貸さずに、コーデリアは依頼の件を調べはじめる……。

 コーデリアは初めて一人で担当する調査を、所長が生存中に言っていたことばを頼りに進めていくが、そのうちに、大学生の死は自殺ではなく他殺なのではないかと思うようになっていく……。
 
 自殺した探偵事務所の所長は、その昔、かの有名なダルグリッシュ警視の部下だったため、所長は折に触れてはダルグリッシュに教わったことをコーデリアに伝えていて、今回の件で、それが大いに役にたったのだが、最後にコーデリアとダルグリッシュの対面という場も用意されている。

 重厚で読み進めるのが大変といわれるP.D.ジェイムズの作品の中では、読みやすい作品です。再読ですが、だいぶ前に読んだせいか、内容をほとんど忘れてしまっていました。(^^;)

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『夢果つる街』

トレヴェニアン/北村太郎訳/角川文庫

 カナダのモントリオールにあるザ・メインという地区を担当しているラポワント警部補。この地区には、さまざまな国籍の人々が暮らしている。ある日、ザ・メインで殺人事件が起き、捜査をするラポワントの下に新米警官が送り込まれてくる。けれども、独特の方法でザ・メインの治安を守っているラポワントのやり方に、大学で刑法を学んできた新米警官はなかなかついていけない。それでも、少しずつ少しずつ、ラポワントのやり方も理解するようになっていく。

 若いころに妻を亡くし、その後、独身を通してきたラポワント。孤独感と苦悩を抱えながら、ひたすらに刑事としての仕事に取り組んでいる。

 警察小説ではあるけれど、事件の捜査に中心をおくのではなく、ラポワント警部補という一人の人間の生き方を通して語られる警察小説となっている。

 雰囲気がとても好きです。じっくりと読める作品です。
ベスト・ミステリなどでよく名前の出る作品なので、読みたいと思いながらも、後回しになっていた作品の一つ。今年は、新しく出される作品と並行して、気になりながら読まずにきてしまったこのような作品も読んでいきたいです。

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『福家警部補の挨拶』

 小柄で縁無し眼鏡をかけた、髪の短い女性。それが、福家警部補。そんな容姿だから、現場にかけつけても警察関係者だと一目でわかってもらえないのに、なぜかいつも、現場到着時に、バッグの中から警察バッジがすんなりと出てこない。
 そんな警部補だが、捜査能力は抜群で、事件に追われて徹夜状態がつづいていても、しっかりと犯人を捜しあてる。この女性版コロンボともいえる福家警部補を主人公とするミステリ短編集。

 犯罪が行なわれる場面が先に書かれていて、読者としては犯人がわかっている状態なので、福家警部補が犯人を見つけ出していくようすを楽しみながら読んでいけます。
 軽いミステリを読みたいときにお勧めです。
 

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『辛い飴』

田中啓文/創元クライム・クラブ

 唐島英治は、ジャズバンド「唐島英治クインテット」の代表をつとめるトランペット奏者。バンドメンバーで息子といってもいいくらいの年齢のテナーサックス奏者、永見緋太郎が音楽にしか興味を示さないため、いろいろな場に連れ出して広い世界に触れさせようとしている。
 そうして出かけた場所や、演奏の場で出会う不可解な謎を、永見が解いてしまう、というミステリの短編集。唐島は、その記録役、といったところ。
 ジャズにかかわる人々に関する、ちょっとほろっとさせられる話や、野球や歴史にからめた話など、タイトルにいろいろな「味」がついた7篇の短篇ミステリが収められている。

 永見のキャラクターがおもしろいし、世間知らずの永見が謎を解いてしまうようすが楽しめる。
 ミステリを楽しみながら、ジャズについても少しずつわかるようになっていく二重に楽しめるシリーズ。シリーズ1作めの『落下する緑』からのファンです。
 各短篇の後には、作者お勧めのジャズレコード紹介もついています。

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『冬そして夜』

S・J・ローザン/直良和美訳/創元推理文庫

 アイルランド系のビル・スミスと、ニューヨークのチャイナタウンで育った中国系の女性リディア・チン。この二人の私立探偵が交代で主人公をつとめるシリーズの8作目。
 二人はいつも、互いの調査に協力し合っている。
 

 今回の主人公はビル・スミス。
 11月半ばの真夜中、ビルは警察からの電話で起こされる。すりを働いていた少年が、知り合いとしてビルの名を告げたのだという。署に行ってみると、少年は妹ヘレンの息子のゲイリーだった。ビルはゲイリーを自宅に連れ帰ってきたが、ゲイリーは、自分にはやらなければならない大事なことがあって家を出てきたのだという。そして、ビルが目を離したすきに姿をくらましてしまった。

 ゲイリーが何をやろうとしているのか、どこに行ってしまったのかを突き止めようとするビルは、妹一家の住むワレンズタウンをたずねる。そして、そこでゲイリーの友人たちに話を聞こうと動き回っていると、ある家で少女が死んでいるのを見つけてしまう……。
 ビルとしては、ゲイリーを探すことさえできればいいと思っているのだが、いつのまにか少女の事件にも巻き込まれていってしまう。
 

 甥のゲイリーを探す過程で、ビルは、それまでリディアにも秘密にしてきていた自分の辛い過去について話さざるを得なくなってしまったり、アメリカン・フットボールの盛んな町ワレンズタウンの抱える問題に直面することにもなる。

 1作目を読んだまま、気になりながらなかなか読めなかったシリーズ。
この8作目では、ビルがずっと語ろうとしなかった過去が明らかになったり、甥を探し、問題を解決しようとする過程で重たい、やるせない問題に直面したり、という辛い場面が数多くあるが、シリーズを通して読んでみたいな、と思えた。

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『阪急電車』

有川浩/幻冬舎

 関西の阪急電車今津線の8駅で乗り降りする乗客の物語をつづった短編集。

 週末に同じ図書館を利用している男女が、図書館からの帰りに偶然、同じ電車に乗り合わせ、ふとしたきっかけから口をきくようになった。社内でつきあっていた男性を女友達にうばわれ、二人の結婚式に出てきたばかりの女性。息子夫婦が出かけるため、あずかった孫娘と出かけた老婦人。などなど……。

 それぞれの話がほのぼのとさせられる暖かい話で、読んでいて優しい気持ちになれます。
 一篇一篇が独立した内容になっていながら、それぞれの話に出てきた人物が微妙に関わりあっていて、始発の宝塚駅から出発した電車が終点の西宮北口駅に着くと、そこにちょっとしたひねりがあるのも心憎い演出といえます。

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『タルト・タタンの夢』

近藤史恵/東京創元社 創元クライム・クラブ

 ビストロ・パ・マルというフランスの家庭料理を出すレストランは、店長であり料理長の三舟、料理人の志村、ソムリエの金子ゆき、そして、ギャルソンの高築の4人でやっている、カウンター席が7つ、テーブル席が5つ、という小さな店だ。
 そこで起こるあれこれの謎を料理長の三舟が解決する、という設定の短篇集。
 

 三舟はフランスで修行中、その名前から「三船敏郎の親戚なのか」と聞かれたりしたことがきっかけとなって、無精ひげをはやし、長髪を後ろで束ねる髪型をするようになり、その一見サムライのようなようすが、三舟のトレードマークとなっている。

 一編一編が、心暖まる話で、しあわせな気持ちになれる。
 こんなお店に行ってみたいな、と思わせられる。

 北森鴻の『香菜里屋』シリーズのフレンチレストラン版、というような感じです。

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『野球の国のアリス』

北村薫/講談社ミステリーランド

 小学校時代に野球のチームに入って、女の子ながらピッチャーをしていたアリス。だが、中学生になると、クラブチームにも学校の野球部にも入れなくなってしまう。その岐路に立っているアリスの物語が、「不思議の国のアリス」の話にからめながら語られていく。

 好きなことを一緒にやっていく子供たちの思いや、スポーツには勝ち負けがあって当たり前であり、それをきちんと受け止めていくことの大切さ、そして、中学生になると野球ができなくなってしまうアリスのせつなさ……など、小中学生が登場人物とはいえ、結構ほろっとさせられる言葉などもありました。

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『名画消失』

ノア・チャーニイ/山本博訳/早川書房

 ある夜、ローマのサンタ・ジュリアナ教会からカラヴァッジョの『受胎告知』が盗まれる。そして、同じころ、パリのマレーヴィチ・ソサイアティからマレーヴィチの『白の上の白』が盗まれる。さらに、イギリスのクリスティーズでオークションにかけられて売られた作品も盗まれる。これらは、世界を股にかけた名画泥棒の仕業なのか? はたまた、偶然時を同じくして盗まれただけのことなのか? それぞれの場所で、警察が美術専門家の協力をあおぎながら捜査を進めるが……。

 著者は美術の専門家で、美術犯罪調査機構を設立しているということなので、絵画に関する薀蓄もたくさん盛り込まれていて、そのあたりも大いに楽しめました。

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