カテゴリー「翻訳ミステリ」の19件の記事

『荒野のホームズ』

スティーヴ・ホッケンスミス/日暮雅通訳/ハヤカワ・ミステリ

 19世紀末、実際にイギリスでホームズ物が書かれていたころのアメリカ西部。

 オールド・レッドこと兄のグスタフ・アムリングマイヤーと、ビッグ・レッドこと弟のオットー・アムリングマイヤーという赤毛の兄弟は、カウボーイだ。洪水と病気で両親とほかの兄弟たちが亡くなってしまい、今では身内は二人だけとなってしまった。家が貧しかったため、ビッグ・レッド以外は学校に通うことができなかったので、字の読めないオールド・レッドは雑誌の記事などをビッグ・レッドに読み聞かせてもらっていたが、そうして読んでもらった中のホームズ物が大のお気に入りとなり、何度も何度も読んでもらっているうちに、その内容も、ホームズの謎の解き方もすっかり覚えこんでしまっていた。

 二人は同じ牧場にカウボーイとして雇われることになったのだが、そこで、支配人が亡くなり、その後、カウボーイの一人も亡くなってしまう。その謎を、オールド・レッドがホームズ張りの推理力で解いていく。そして、その話を書き記していくワトスン役は、とうぜんながら弟のビッグ・レッドだ。

 著者も、もちろん、ホームズの大ファンなのだろう。イギリスからやってきた牧場のオーナーたちの会話の中で、ホームズが実際にイギリスで解決した事件のことなどがさりげなく書かれている。西部のカウボーイとホームズというおもしろい取り合わせが、違和感なく書かれている。

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『女には向かない職業』

P.D.ジェイムズ/小泉喜美子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫

 探偵事務所の所長が自殺をし、パートナーとなっていたコーデリアは一人残された。そこに持ち込まれた依頼。大学生の息子が自殺をしたのだが、原因を調べて欲しい、というものだった。周囲の「女には向かない職業」ということばには耳を貸さずに、コーデリアは依頼の件を調べはじめる……。

 コーデリアは初めて一人で担当する調査を、所長が生存中に言っていたことばを頼りに進めていくが、そのうちに、大学生の死は自殺ではなく他殺なのではないかと思うようになっていく……。
 
 自殺した探偵事務所の所長は、その昔、かの有名なダルグリッシュ警視の部下だったため、所長は折に触れてはダルグリッシュに教わったことをコーデリアに伝えていて、今回の件で、それが大いに役にたったのだが、最後にコーデリアとダルグリッシュの対面という場も用意されている。

 重厚で読み進めるのが大変といわれるP.D.ジェイムズの作品の中では、読みやすい作品です。再読ですが、だいぶ前に読んだせいか、内容をほとんど忘れてしまっていました。(^^;)

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『夢果つる街』

トレヴェニアン/北村太郎訳/角川文庫

 カナダのモントリオールにあるザ・メインという地区を担当しているラポワント警部補。この地区には、さまざまな国籍の人々が暮らしている。ある日、ザ・メインで殺人事件が起き、捜査をするラポワントの下に新米警官が送り込まれてくる。けれども、独特の方法でザ・メインの治安を守っているラポワントのやり方に、大学で刑法を学んできた新米警官はなかなかついていけない。それでも、少しずつ少しずつ、ラポワントのやり方も理解するようになっていく。

 若いころに妻を亡くし、その後、独身を通してきたラポワント。孤独感と苦悩を抱えながら、ひたすらに刑事としての仕事に取り組んでいる。

 警察小説ではあるけれど、事件の捜査に中心をおくのではなく、ラポワント警部補という一人の人間の生き方を通して語られる警察小説となっている。

 雰囲気がとても好きです。じっくりと読める作品です。
ベスト・ミステリなどでよく名前の出る作品なので、読みたいと思いながらも、後回しになっていた作品の一つ。今年は、新しく出される作品と並行して、気になりながら読まずにきてしまったこのような作品も読んでいきたいです。

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『冬そして夜』

S・J・ローザン/直良和美訳/創元推理文庫

 アイルランド系のビル・スミスと、ニューヨークのチャイナタウンで育った中国系の女性リディア・チン。この二人の私立探偵が交代で主人公をつとめるシリーズの8作目。
 二人はいつも、互いの調査に協力し合っている。
 

 今回の主人公はビル・スミス。
 11月半ばの真夜中、ビルは警察からの電話で起こされる。すりを働いていた少年が、知り合いとしてビルの名を告げたのだという。署に行ってみると、少年は妹ヘレンの息子のゲイリーだった。ビルはゲイリーを自宅に連れ帰ってきたが、ゲイリーは、自分にはやらなければならない大事なことがあって家を出てきたのだという。そして、ビルが目を離したすきに姿をくらましてしまった。

 ゲイリーが何をやろうとしているのか、どこに行ってしまったのかを突き止めようとするビルは、妹一家の住むワレンズタウンをたずねる。そして、そこでゲイリーの友人たちに話を聞こうと動き回っていると、ある家で少女が死んでいるのを見つけてしまう……。
 ビルとしては、ゲイリーを探すことさえできればいいと思っているのだが、いつのまにか少女の事件にも巻き込まれていってしまう。
 

 甥のゲイリーを探す過程で、ビルは、それまでリディアにも秘密にしてきていた自分の辛い過去について話さざるを得なくなってしまったり、アメリカン・フットボールの盛んな町ワレンズタウンの抱える問題に直面することにもなる。

 1作目を読んだまま、気になりながらなかなか読めなかったシリーズ。
この8作目では、ビルがずっと語ろうとしなかった過去が明らかになったり、甥を探し、問題を解決しようとする過程で重たい、やるせない問題に直面したり、という辛い場面が数多くあるが、シリーズを通して読んでみたいな、と思えた。

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『名画消失』

ノア・チャーニイ/山本博訳/早川書房

 ある夜、ローマのサンタ・ジュリアナ教会からカラヴァッジョの『受胎告知』が盗まれる。そして、同じころ、パリのマレーヴィチ・ソサイアティからマレーヴィチの『白の上の白』が盗まれる。さらに、イギリスのクリスティーズでオークションにかけられて売られた作品も盗まれる。これらは、世界を股にかけた名画泥棒の仕業なのか? はたまた、偶然時を同じくして盗まれただけのことなのか? それぞれの場所で、警察が美術専門家の協力をあおぎながら捜査を進めるが……。

 著者は美術の専門家で、美術犯罪調査機構を設立しているということなので、絵画に関する薀蓄もたくさん盛り込まれていて、そのあたりも大いに楽しめました。

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『1/2の埋葬』(上・下)

ピーター・ジェイムズ/田辺千幸訳/ランダムハウス講談社

 舞台はイギリスのサセックス州。結婚式を間近に控えたマイケルを、友人たちは独身最後の夜(スタグ・ナイト)のいたずらで棺桶に入れて埋めてしまった。もちろん、本気で殺すつもりはないから、蓋に穴をあけて、そこに管を通して呼吸ができるようにしていたし、トランシーバーを入れて自分たちと連絡を取れるようにしていたし、二時間ほどしたら戻ってきて棺桶から出してやるつもりだった。だが、その友人たち四人の乗る車が事故を起こしてしまい、四人のうち三人が亡くなり、残りの一人も話ができないほどの重傷をおってしまった……。
 一方、行方不明のマイケルを心配した婚約者のアシュリーが警察に届け出、その届け出を受けたブランソンが、グレイス警視に協力を依頼する。
 マイケルは友人たちが残していった無線機で連絡を取ろうとするが、友人たちは自分たちにしかつながらないように無線機に細工をしていた。そのうえ、事故現場に残っていた友人たちの無線機は、警察が見つける前に、ある人物が持ち去ってしまった。マイケルは携帯電話で婚約者に連絡を取ろうとするが、電波が届かずつながらない。はたして、グレイス警視たちはマイケルを生きた状態で無事救出できるのだろうか?

 話の設定や、グレイス警視たち主要な登場人物には魅力を感じるのだが、グレイス警視が超常現象を信じていて捜査に利用するところが納得できなかった。グレイスが超常現象を信じるようになったのには、それなりの理由があるとはいえ、やはり人間の頭で考えた方法で捜査をしてほしいと思った。その点だけが残念!!

 それにしても、スタグナイトとは、なにをされるかわからないほど恐ろしいものなのですね~。マイケルはいたずら好きで、これまでに友人たちのスタグナイトに、けっこうすごいことを率先してやってきたようなので、友人たちもさらにエスカレートしちゃったのでしょうか?

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『道化の死』

ナイオ・マーシュ/清野泉訳/国書刊行会

 民俗学研究者であるビュンツ夫人は雪の降りしきる中、車を運転しながら、イングランドの南マーディアンという村にやってきた。その村で行われる〈五人息子衆のダンス〉と呼ばれる豊穣の祈りを捧げるダンスについて調べるためだった。けれども、そのダンスが行われる家を訪ねても、ダンスの中心人物の家を訪ねても、ダンスについて話すことを拒まれてしまう。それでも、ダンスは一般に公開されるし、乗ってきた車が故障してしまったこともあって、ビュンツ夫人はダンスの日まで村の宿に滞在することにした。
 そして、当日、ダンスを踊っていた〈道化〉役の人物が、ダンスの途中に首を斬られて死んでしまう。だが、見物人が大勢いる中で行われた犯罪なのに、その現場を見ていた人間は一人もいなかった。スコットランド・ヤードからアレン警視を始めとする警察の面々がやってきて、地元の警察とともに捜査を始めるが……。

 捜査が進むにつれ、登場人物それぞれの抱える事情が表に出てきて、それぞれにあやしげに思えてくるあたりや、ダンスとそれについて調べるビュンツ夫人との関係についてなど、いろいろと楽しめた。途中で、「あれ~、もしかして……?」と思ったことはあたっていたけれど、それにどんな役割があったのかについてはわからなかった。なるほど~、と思いました。

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『ミステリ講座の殺人』

クリフォード・ナイト/森英俊訳/原書房

 元新聞記者のマックスは、かつてその作品を夢中になって読んだミステリ作家イーディス・メアリー・マーカーの自宅で催されているミステリ講座に参加することになった。が、イーディス・メアリーの家を訪れたその夜に、イーディス・メアリーと秘書のラヴィナが「ルスピアム」なるものがなくなったと大騒ぎをしだし、その夜遅くにラヴィナが何者かに殺される。そして、それに続いて起こる銃撃事件、更なる殺人……。
「ルスピアム」とはいったいなんなのか、そして、事件の真相は? ミステリ講座のために滞在している客の中に犯人がいるのだろうか?

 巻末には、本文中に書かれている犯人に関する手がかりが載っているので、作品を読み終えたあと、それを読んで、自分の見つけた手がかりと比較するという楽しみも味わえます。

 作者はエラリー・クイーンと同時代にアメリカで活躍したミステリ作家だそうですが、日本ではほとんど紹介されてこなかったらしいので、これから翻訳が続くといいと思います。

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『終決者たち』(上・下)

マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫

 ロス市警に25年間勤め、3年間引退生活を送っていたハリー・ボッシュが、職務に復帰することとなった。新しく配属されたのは、未解決事件班。そこでボッシュは、パートナーとともに、17年前に起きた女子高生殺人事件を改めて調べなおすこととなった。
 だが、ボッシュの復帰は単純なものではなかった。ボッシュの復帰は、一年間は仮採用の状態なので、もしなにか問題を起こせば警官人生は終わりになってしまう。そして、そればかりか、ボッシュを復帰させた市警本部長や、かつてのボッシュのパートナーであり、今回のボッシュの復帰にあたって後押しをしてくれたキズミンの立場をも危うくしかねない状況にあったのだった。
 こんな状況の中で、ボッシュは、今回もパートナーを組むこととなったキズミンとともに、17年前に起きた事件の犯人を探し出すことができるのだろうか?

 いつも被害者の気持ちを代弁することに誠実に取り組むボッシュ。『暗く聖なる夜』の最後で存在が明らかになったある人物がボッシュに与える影響が、ボッシュの思いや言動のあちこちにあらわれていて、ボッシュに新しい面を与えている。
 長く続いているハリー・ボッシュのシリーズの全てを読んでいるわけではないけれど、どの作品を読んでも読んでよかったと思えるので、未読の作品も読みつくしたいと改めて思いました。

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『クロエへの挽歌』

マージェリー・アリンガム/井伊順彦訳/新樹社

 上演中のミュージカルに対するいやがらせが立て続けに起こっているので、そのことについて調べて欲しいという依頼をミュージカルの主演俳優ジミー・ステインから受け、ミュージカルの原作者であり知人でもあるファラデー氏とともにステインの楽屋を訪れた探偵のアルバート・キャンピオン。ステインの話によれば、いやがらせはミュージカルだけにとどまらず、自宅のほうでもおこなわれているらしい。翌日、自宅に来て欲しいとステインから言われ、キャンピオンは、ファラデー氏とともにステイン家をたずねる。ところが、その最中にもおかしなことが起こり、その上、ステインの家に滞在していたステインの共演者の女優が亡くなってしまい……。

 主人公のキャンピオンをはじめ、脇役陣も個性派ぞろいです。キャンピオンは、調査を進めるうちに生じてしまった自分の悩みのために調査から身を引きたいと思ってしまったり、自分が好感を抱いている人物が怪しく思えてくると心がざわついてしまったりするような、とっても人間味のある探偵です。以外な結末には驚かされましたが、最後にはほろっとさせられました。そして、日本語のタイトル『クロエへの挽歌』の意味も納得しました。後味のいいミステリです。1930年代という設定ですが、決して古い感じはせず、物語がミュージカルのシーンから始まったり、登場人物の多くがミュージカルの関係者だったりするせいか、華やかな雰囲気も漂っています。そんな中に、ユーモアも含まれていたり、ほろっとさせられるようなシーンもあって、物語性も楽しめるミステリでした。
 キャンピオンものはシリーズとなっているようなので、シリーズのほかの本も読んでみたいです。

 
 

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『記憶をなくして汽車の旅』

コニス・リトル/三橋智子訳/創元推理文庫

 「わたし」は目を覚ますと、オーストラリア大陸を横断する汽車に乗っていた。付き添ってくれていた女性の話では、自分ともう一人の女性は上の寝台から荷物を下ろそうとして、その下敷きになってしまったらしいとのことだった。そして、もう一人の女性は腕の骨を折ったので途中駅で降ろされて病院に搬送されたという。だが、「わたし」は、自分がだれなのか、そして、どうして汽車に乗っているのかがわからなかった。
 「わたし」はとりあえず自分の持ち物の中身を調べて、名前はクレオ・バリスターで、28歳の独身のアメリカ人だということがわかった。そして、持っていた手紙から、初めて会う親戚のジョーおじさんたちと途中駅で合流して、おじさんたちの住んでいる町を訪れようとしているところらしい、ということなどもわかった。けれども、自分が持っているスーツケースの中に入っている服は好みに合わないものだし、おじさんと一緒に途中駅から汽車に乗ってきた親戚のジミーからは、この前の7月に変装して自分たちのところに来てジョーおじさんの兄を殺しただろうと脅迫されるし、挙句には殺人まで起こり……。

 少しずつ記憶が戻ってきてはいる「わたし」だが、なかなか完全には記憶が戻らない。記憶が少しずつ戻ってくるようす、ジョーおじさんのお兄さんの死に関する謎、汽車の中で起きた殺人の真相……が絡まりあって、少しずつ解けていくようすを楽しめました。オーストラリアでは州ごとに線路の幅が違うため(この作品が書かれた1940年代の話で、今もそうかどうかはわかりませんが)、大陸横断列車といえども、汽車が州を越えるたびに汽車を乗り換えなければならないことや、アボリジニの話など、オーストラリアならではのトリビアも楽しめました。

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『ウォンドルズ・パーヴァの謎』

グラディス・ミッチェル/清野泉訳/河出書房新社

 月曜日、ロンドン郊外にあるウォンドルズ・パーヴァという村に屋敷を構えるルパート・セスリーから遺言書を変更するという理由で呼び出され、弁護士のグレイリングがセスリーの家をたずねていくと、従弟だというレッジーから、「ルパートは今朝、アメリカに行ってしまったんです」と言われる。そして、火曜日の朝、村から少し離れたボスベリーの市場の肉屋に、頭のない人間の裸の死体がぶら下がっているのが見つかる。アメリカに行ったと言われているが不審な点のあるルパート・セスリーの体ではないかと警察は考えるが、頭が見つからないため断定できずにいる。
 そして、村に住む精神学者の女性が、その謎に探りをいれはじめ……。

 登場人物が多彩なため、あやしいと思える人間がたくさんいて、いろいろなことの起こるたびに犯人と思える人が変わっていき、その様子がみごとだと思いました。そして、真相も……。おもしろかったです。頭のない裸の死体、と考えるとちょっと怖い気がするかもしれませんが、読んでみると全然そんなことはなく、どこかとぼけた雰囲気を楽しむことができました。訳者あとがきによれば、作者はクリスティやセイヤーズと同時代の人だそうですが、未訳の作品もあるそうなので、それらの作品も訳されるといいなと思いました。

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『灯台』

P・D・ジェイムズ/青木久恵訳/ハヤカワ・ミステリ

 イギリスのコーンウォール沖にある小さな島、カム島は、ホールカムという一族が所有しているが、ホールカム家は、この島とそこにある不動産を信託資産として、島に住む人々や短期間滞在する人について細かな規則を設け、一般の人が自由に島に出入りできないようにしていた。ところが、その島の灯台で、滞在中の作家が首を吊るという事件が起きた。そして、それには他殺の可能性もあった。島では近々、首相が極秘の国際会議を開くことになっていたため、ダルグリッシュ警視長たちにその捜査が任されることになった。
 作家の死は自殺なのか他殺なのか? 他殺なら、なにが原因で、だれが、どうやって殺したのか? 
島に滞在している人数は少ないが、だれもに動機があるように思える中、ダルグリッシュたちはどうやって真実を探るのだろう? 途中、ダルグリッシュにある危機が訪れ、そのあいだ、警部であるケイトと部長刑事であるベントンが協力して捜査を進めていくのだが、ベントンを過小評価していたケイトは少しずつ、ベントンを認めるようになっていく。

 島に滞在している人々の背景が細かく丁寧に書かれ、それを捜査するダルグリッシュたちの様子も丁寧に書かれています。ダルグリッシュが主人公のこのシリーズは長く続いてきているもののようです。読み応えのある一冊でした。

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『イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部』

ローラ・チャイルズ/東野さやか訳/ランダムハウス講談社

 チャールストンでインディゴ・ティーショップを経営するセオドシアが主人公の〈お茶と探偵〉シリーズの4作目。
 どうしたわけか、たびたび犯罪現場に居合わせてしまうセオドシアは、持ち前の好奇心から独自に捜査を進めていく。
 今回、セオドシアは、インディゴ・ティーショップの若き菓子職人ヘイリーに頼まれて、絶滅の危機に瀕しているアオウミガメの卵からかえった赤ちゃんガメが無事に海に向かっていけるように見守るボランティアの手伝いをすることになった。そして、ウミガメが孵化するようすに感動していると、沖合に浮かぶものが目に入った。病気や怪我をした海の動物かもしれないと思ったセオドシアは、その漂流物に向かって泳いでいったのだが、その正体は、なんと人間の死体だった。しかも、それは、インディゴ・ティーショップでティー・ブレンダーをしているドレイトンの友人だったのだ……。

 こんなふうに死体が出てきたりはするものの、肩肘張らずに気軽に読めるコージー・ミステリで、謎解きとともに、チャールストンの街のようすや、登場人物たちのやり取りも楽しめるシリーズ。
 インディゴ・ティーショップのオーナーである、主人公のセオドシア。その愛犬のアール・グレイ。かつてはチャールストンの大手のホテルで接客部長をしていたが、このティーショップを開店するにあたり、セオドシアに引き抜かれてティー・ブレンダーをしている、お茶の知識豊富なドレイトン。同ティーショップの菓子職人で、大学の夜学に通っているが、飽きっぽくて専攻を変えてばかりいるヘイリー。ブティックのオーナーで噂好きのデレイン。そして、かつてはFBI捜査官だった、現場仕事に魅力を感じているティドウェル刑事。などなど、登場人物も多彩です。
 途中には、ドレイトンの披露するお茶の知識が盛り込まれていて、巻末には、物語中に出てきた料理のレシピというおまけもついています。

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『混濁の夏』

カルロ・ルカレッリ/菅谷誠訳/柏艪舎

 第二次世界大戦終戦直後のイタリア。ファシズム体制下でキャリアを積んだデルーカ捜査官は、一転、逃亡者の境遇へと突き落とされてしまった(訳者あとがきより)。

 身を偽って逃亡中のデルーカに、ある日、パルチザン警察の巡査部長のレオナルディが声をかけ、、デルーカの偽の身分証を取り上げてしまった。そして、自分は今、初めての”政治がらみ”ではない重大事件を担当していて、それをどうしても自分の手で解決したいのだが、なにぶんにも経験が乏しい、あなたは、かつて警察学校長が”イタリア警察界最高の捜査官”とまで呼んだ刑事捜査官のデルーカという人にとてもよく似ている、だから、捜査に協力してほしい、と言い、デルーカの正体を知っていることをほのめかした。
 かつては、レオナルディの言うように周囲からあがめられていたデルーカだが、現在は政治情勢の変化に呑みこまれ、身を偽っている状態で偽の身分証をレオナルディに取り上げられてしまい、正体も知られている上に、レオナルディは銃を持っている。デルーカに選択の余地はなかった。レオナルディがとった宿に泊まらされ、レオナルディの仲間や周囲の人たちには「技師」と紹介され、レオナルディの担当する事件捜査を手伝うことに……。

 捜査の結果、どんな事実が判明するのか? 周囲の人間にデルーカの正体は見破られないのか? デルーカの将来はどうなってしまうのか? などなどを考えながら、どきどきしながら読みました。
 この本は、「デルーカ事件簿」シリーズの2作目。
時代の変化によって、追う身が追われる身に変わってしまう恐ろしい状況の中、本作の最後であることが起こるので、シリーズ3作目ではどんなふうになっていくのか、とても興味津々です。1作目を読んでいないので、1作目も是非読まなければ! 
 時代背景が時代背景なので暗い雰囲気が漂ってはいますが、妙にひきつけられてしまいました。
 

  

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『無意識の証人』

ジャンリーコ・カロフィーリオ/石橋典子訳/文春文庫

 イタリアの南部にあるバーリ市で弁護士をしている38歳の男性グイードのところに、ある日、アバンジャジェ・デエバという黒人の女性がたずねてきた。恋人であるセネガル人アブドゥ・ティアムが、少年の誘拐殺人容疑で逮捕されたのだという。アブドゥには不利な要素が数多くあった。31歳のアブドゥは、正規の滞在許可証を所持してイタリアで行商をしていた。セネガルでは学校の教師をしていたが、イタリアで行商をしたほうが儲けが多いため、イタリアに滞在し、その後は心理学を学びたいと思っていたという。自国で教師をしていたアブドゥは子どもたちを愛しており、彼らを傷つけるようなことができるはずはない、とアバンジャジェは言った。逮捕されてから別の弁護士を雇ったが、その弁護士は高額の報酬を要求して申し立てをしたがうまくいかず、上告のためにさらに高額の報酬を要求してきた。弁護士への最初の報酬は友人たちが工面してなんとか集めることができたが、上告のための金額を集めることはできなかったため、アブドゥは今も刑務所内にいるという。もうすぐ上告のための裁判が近づいてきていて、人づてにグイードが金のことを問題にしない弁護士だと聞いたので、アバンジャジェが集まっただけの金を持って弁護を依頼しに来たのだった。グイードは、アブドゥに会いに刑務所に行くが、アブドゥは弁護士を信用しておらず、どうせ有罪になるのだとあきらめきっている。だが、グイードと話をするうちに、少しずつ心を開いてきた。
 そして、略式裁判をして刑を軽くしようとするグイードに対して、アブドゥは自分は無実なのだから、ほんの少しでも無罪になる可能性があるのなら、その方法で裁かれたいと主張した。だが、そのためには多額の金が必要と聞き、愕然とする。さらに、追い討ちをかけるように、国から奨学金をもらって勉強に来ていたアバンジャジェが国に帰らねばならなくなってしまった。アブドゥはどうなってしまうのだろう……。

 グイード弁護士シリーズの1作目の作品です。2作目の『眼を閉じて』を先に読み、おもしろかったので、こちらも是非読みたいと思っていました。グイードは決して正義感に燃えている弁護士というわけではないのですが、明らかに不利だと思える依頼でも、依頼人と話したりしているうちに断りきれなくなって引き受けてしまうというような弁護士です。そして、弁護士としてグイードが仕事をしているようすだけが話として進んでいくわけではなく、グイードの人間的な部分も内容の多くを占めているストーリーなので、その両方を楽しめるシリーズです。

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『物しか書けなかった物書き』

ロバート・トゥーイ/法月綸太郎編/河出書房新社


 ミステリの短編集です。どの話も予想もできない結末で、とても楽しめました。
 シリーズ物の2作をのぞけば、1作ごとにまったく違った趣をもつ作品が収められています。ちょっとした時間に読むことができるのが短編のいいところだと思いますが、この本の中の話はみな濃い内容なので、じっくりと読んでしまいました。
 ミステリの新たなおもしろさを教えてくれた本でした。
 特におもしろいと思ったのは、「階段はこわい」「そこは空気も澄んで」「物しか書けなかった物書き」「拳銃つかい」「支払い期日が過ぎて」「犯罪の傑作」「オーハイで朝食を」でした。

 

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『ヴェルサイユの影』

クリステル・モーラン / 野口雄司訳 / ハヤカワ・ミステリ

 5月末の冷たい雨の降る朝、ヴェルサイユ宮殿の庭園で若い女性の死体が見つかった。女性は額に銃弾を受けていた。発見者の警備員が夜間組から引継ぎを受けたときには異常はなく、そのあと巡回していて見つけたという。庭園を囲む鉄柵は構造から考えて乗りこえることは不可能なうえ、どの入口にも不法侵入の形跡は認められなかった。数日後、今度は宮殿の礼拝堂で若い女性の死体が見つかった。今回も不法侵入の形跡はない。そのため、殺人犯は宮殿や庭園の鍵を持っていると考えられる。前回と同じ方法で殺害されていることから、同一人物の犯行と考えられた。その後、宮殿の監視をさらに厳重にしたが、3度目の殺人が起きてしまう。ヴェルサイユ司法警察のボーモン警視と部下のマッサール隊長が中心となって捜査にあたるが、手がかりらしきものが見つかりはするものの、犯人らしき人物は依然として浮かび上がってこない。ついに業を煮やしたモレル本部長が、ボーモンを捜査からはずすと言い出す。ボーモンは一週間の猶予をもらうが、果たして犯人を捕まえることはできるのだろうか?

 ヴェルサイユ宮殿が舞台になっているとはいえ、ヴェルサイユ宮殿やフランスの歴史に詳しくなくても十分楽しめます。宮殿で働く人たちが宮殿への熱い思いをこめて、それらのことを語ってくれますので。読んでいると、まるで現実にその場にいて話を聞いているような気持ちになってしまうほどで、ヴェルサイユ宮殿の写真集が手元にあったらいいのに、と思ってしまいました。
 仕事をこよなく愛し、常に冷静に行動するボーモン警視。感情を表に出すことなく仕事を完璧にこなし、女性にもてるのに、女性を蔑視しているようすのマッサール隊長。夫婦げんかのたびに部下にあたりちらし、ボーモンに圧力をかけるのが自分の義務と考え、捜査に進展がみられると途端に上機嫌になるモレル本部長。この3人が捜査側の主な登場人物で、物語の本筋の謎解きといっしょに、この3人のかかわりあいも楽しめます。
 本作につづいて、フランスの名所を舞台にしたシリーズが始まるとおもしろいな、と思いました。

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『最後の刑事』

ピーター・ラヴゼイ/山本やよい訳/ハヤカワ文庫

 ダイヤモンド警視ものが好きです。でも、はずかしながら細かいところを忘れてしまったし、久しぶりにあの雰囲気にひたりたいと思ったので、他の本を読む合間に少しずつ読みすすめていこうと思っています。

 ブリストルの南にあるチュー・ヴァレー湖で女性の全裸死体が見つかる。捜査の指揮にあたったのは、ダイヤモンド警視。似顔絵を公表すると多くの情報が寄せられた。その中に、あるドラマに出ていた女優に似ているという情報が数多く寄せられた。ダイヤモンドは初め、現実とドラマがいっしょになっている人間が多すぎると思い、その情報を重要視していなかった。が、死体は情報が寄せられた女優のものであるということが判明した。だが、その女優が行方不明になってから3週間もたつというのに、夫である大学教授は周囲の人からいわれるまで、湖で発見された死体が自分の妻のものだということに気づかなかったのだ。そのため、夫が犯人かと疑われ……。           

 ダイヤモンド警視は失敗したことはすぐ忘れてしまう前向きな性格で、そこのところがとてもいい。また、話の途中で男の子と関わりあうことになるのだが、その関係もとてもよかった。相手が子どもといえども、きちんと同じ目線で向き合うダイヤモンドの姿はすてきだと思う。                                 

 

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