京都市立堀川高校長 荒瀬克己著/朝日新書
2002年春、「堀川の奇跡!」という派手な見出しが新聞や雑誌に載ったという。前年度6人だった堀川高校の国公立大現役合格者が、この年いきなり106人になったのだという。そのひみつは?
その3年前に、堀川高校では校舎の前面改築が行われ、そのとき、この高校の先生たちは「中身をしっかりと考え、それに合わせた建物を造ろう」と考えたという。
戦後、京都の公立高校入試は総合選抜というやりかたで行われていた。それは、公立高校普通科の入学定員全体がまず合格者とされ、次に基本的に小学校区単位で入学校が決定されるというシステムだという。そのため、学校差は生まれないというメリットはあったが、高度成長期になって私学が大学進学を軸にした取り組みを進めるようになって、公立高校はしだいに大学合格者数を減らしていったという。その後、京都の公立高校では志望校を選ぶ「単独選抜」も行われるようになったが、そのため、人気校、不人気校の格差が生まれてしまい、しかも、私立や国立の高校が大学進学の点で優位を誇っていることにかわりなはかった。だが、堀川高校に限らず、公立高校全体がだめだと考えられていた京都の状況のなかでも、大学進学の実績だけで高校を選ぶのはどうか、という意見もあり、公立高校の自主性を育てる自由さを保ちながら進学希望を実現する進路指導の充実を求める声がどんどん大きくなっていったという。
そんななか、市立高校の内部から「学校を変えたい」という動きが起こりだし、堀川高校も例外ではなかった。本書の著者を含めた4人の先生たちが話し合いを始め、それが少しずつ大きな動きになり、具体的な形となっていった。その結果、大きな改革を起こした年に入学した生徒たちが卒業した2002年に、「堀川の奇跡」と呼ばれる現象が起こったのだった。
本のタイトルを見て、単に現役大学合格者数を驚異的に増やすためのひみつが書かれている、と思った人は読んでがっかりするかもしれません。
けれども、最後まで読めば、本当の教育とはなんなのか? ということが書かれている本だと思うのではないでしょうか。
堀川高校では、保護者が少し不安になるほど、受験に直接関係のないことがたくさんあるといいます。それは、大学合格がゴールだと考えているのではないからです。堀川高校の先生たちは、「先の長い人生を生きていくための夢をかなえるためには希望する大学に合格することが大切であり、かつ、将来何をするにしても社会で多くの人と関わって生きていくための力もしっかりとつけることが大事」だと考えているのです。
堀川高校で行われている教育は、魔法ではありません。やはり、やるだけのことはやっているのです。でも、その方法が違うのです。人と関わりながら、いろいろなことを精一杯やることのできる人は、受験に向かったときも大きな力を発揮できるのだろうな、と思いました。この高校では、その独特の授業に多くの時間を費やさなければならないため、最後の模試までに受験勉強がまにあわないため、A判定を取れる生徒はほとんどいないそうです。それでも、9月初めの文化祭では3年生がいちばん熱中して準備をしているそうです。そんな生徒たちが、最後には「この大学に入って学びたい」という気持ちによって現役合格をしていくのだそうです。
「名のある大学に入ること」が目的なのではなく、「大学に入ってなにをやりたいか」という目標をきちんと持っていることが大切なことなど、いろいろなことを考えさせられた本でした。
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